労働生産性向上に寄与する投資

(1) 日本の生産性が低い実態を知る

 

 生産性とは、output(産出)/input(投入)を表すもので、効率性を測る指標として利用されています。一般に生産性というと労働生産性(Labor Productivity)を指しますが、労働生産性は労働者1人当たりで生み出す成果、あるいは労働者が1時間で生み出す成果を指標化したもので、労働生産性=(付加価値額or生産量)/(労働投入量〔労働者数or労働者数 労働時間〕で表します。日本生産性本部の2014年の労働生産性国際比較によるとOECD加盟34ヵ国中、日本の労働生産性は21位です。

 

 図はROA(総資本利益率)と労働生産性のレベルを米、独、日の3国で比較したものです。すると、比較する年度の違いはありますが利益率と生産性は、同レベルにあり相関があることが分かります。つまり、労働生産性の向上は総資本利益率の向上に繋がるということなのです。

 (2)資本装備率は欧米の3倍もあるのに

 図で日本製造業のTFP(Total Productivity Factor)を労働生産性と資本生産性の側面から見ると資本生産性が著しく低いことがわかります。資本生産性は大企業では仏の1/2、独の1/3です。しかし労働生産性と資本生産性をつなぐ資本装備率は大企業では仏・独の3倍、中小企業でも2倍の水準にあります。日本は仏・独に比べて、従業員一人当たり2倍~3倍もの有形固定資産を使っていることになります。
通常、資本装備率の向上は労働生産性に寄与します。図に示すように、仏・独では資本装備率の向上がそのまま労働生産性の向上に連動しています。しかし、日本の場合は近年の労働生産性は独にも抜かれ、中小企業に至ってはほとんど寄与していません。省力化のための設備投資であれば労働生産性向上に寄与するので、大企業の設備投資は省力化に、中小企業は現状の生産を維持するために使われていることが分かります。
日本の製造業のROAが低い水準にとどまっているのは、資本生産性が著しく低いことが要因であり、これは企業の生産設備が有効に活用されず、収益を生み出していないことを意味しています。日本企業の収益性が低い背景に、もともと資本コストが低く、株主が要求する利益水準も低いことがありますが、企業が利益の低い投資プロジェクトを選択していることが浮き彫りになっています。

(3)  生産性向上=自動化ではない

 

・能力時間:設備は1日24時間×365日(通常は会社の稼働日)の能力を持つ

・負荷時間:設備に仕事が負荷されている時間

操業度ロス(計画停止)・・・:能力時間-負荷時間で仕事がなく停止している時間

・使用時間:設備を使用している時間

停止ロス・・・・・・・・・・・・・・:機械故障、材料切れなどで停止している時間

・標準時間:標準機械スピード・サイクルタイム/個×良品生産数

基本機能+補助機能+干渉・バランスロスから成る

速度ロス・・・・・・・・・・・・・・標準機械スピードの低下ロス(チョコ停ロスを含)

・基本機能時間:製品の加工・変形・変質を伴う時間

・補助機能時間:基本機能作業を補助する作業時間で「取り置き」が代表的作業である

干渉ロス・・・・・・・・・・・・・・人と機械等の連合作業時に干渉により発生する待ち時間

バランスロス・・・・・・・・・・同期生産で各工程のCTが合わないため発生する待ち時間

性能ロス・・・・・・・・・・・・・・設備のMAX性能の未使用ロス

寸法ロス・・・・・・・・・・・・・・設備のMAX寸法の未使用ロス

(4) なぜ設備が労働生産性向上に繋がらないか

 

 図は人と設備の効率を見るときのロスの内訳を示しています。設備は管理面のロスが減って設備効率が向上しても、設備に余力を作るだけで、減価償却費(設備費)は低減しません。それが人時間やエネルギーの低減に繋がったとき、変動加工費である直接労務費・燃料動力費の低減効果になります。そこで、ネックになる設備を重点管理対象にしますが、ネック以外の設備効率向上に終始していないでしょうか。

それより問題は、順調にいっていると考えている設備の稼働中のロスにあります。図に示す設備稼働時には加工・変形・変質を伴う基本機能だけで行いたいのですが、取り置き・運搬などの補助機能があります。設備を高速化して1サイクルの時間が短くなると、1サイクルに1回の取り置きによる補助機能比率が増え、正味の基本機能比率が低下します。自動化設備の代表である産業用ロボットも基本機能に使われている比率は極めて少ないのです。

さらに、基本機能である加工、変形、変質を伴う時間にもロスが発生します。一台の設備で多品種を生産しようとするとMAXの要求能力の設備を導入しますが、稼働時はMAX能力が発揮されない設備の有効利用度のロスが発生します。図右下の基本機能の余白部分が設備能力の性能と寸法の未使用を示しています。もう1つの設備能力は機械スピードです。機械スピードは、品質条件に基づき、設備本体、工具・刃具、エネルギー、ワーク、治具などの生産要素の組み合わせで決まり、その中のネックとなる生産要素(切削油etc)を改善すれは速くなります。こうした技術的な課題を、製造現場の経験に依存していないでしょうか。